東京高等裁判所 昭和28年(ネ)1971号 判決
控訴人は、原判決を取り消す、被控訴人が控訴人にたいし昭和二十六年四月三十日附でした昭和二十五年度分所得金額五十一万五千円、税額十八万円税の増加額十万三千円加算税額五千百五十円とする更正決定を取り消す、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の法律上事実上の主張証拠の提出援用認否は、控訴人において、控訴人は、昭和二十五年度分所得金額を金三十万九千九百三十五円と計算して申告したところ、被控訴人は、昭和二十六年四月三十日附で所得金額を五十一万五千円とする申立掲記の更正をし、同年五月九日にその旨控訴人に通知してきたが、控訴人はこれに不服であるので、同月二十二日被控訴人にたいして再調査の申立をした。ところが被控訴人はこれにたいする決定をしないので、所得税法第五一条第一項但し書第三項によつて、前記更正決定の取消しを求めるため、本訴請求に及んだ次第である。」と述べたほか、原判決事実らん記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
三、理 由
控訴人が昭和二十五年度分所得金額を金三十万九千九百三十五円として確定申告をし、被控訴人が昭和二十六年四月三十日附で、右所得金額を金五十一万五千円とする控訴人主張の更正決定をして、同年五月九日これを控訴人に通知し、控訴人がこの更正に不服であるとして同年五月二十二日被控訴人にたいして再調査の請求をしたことは、本件当事者間に争がない。
右再調査の請求について控訴人は、請求後六箇月を経過するまでなんらの決定がないと主張し、被控訴人は再調査の結果昭和二十六年九月九日再調査請求を理由なしとして棄却する決定をし、同月十一日その決定通知書を控訴人あて発送し、おそくとも同月十二日には控訴人に到達したと主張するから、この点を検討する。
原審証人清水友次の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第一号証(再調査事務処理反省票)と同人の証言とによると、被控訴人は、控訴人の再調査の請求についてこれを理由なしとして棄却すべきものと決したことが認められ、原審証人出井慶子の証言と同証言によつて真正に成立したものと認められる乙第二、第三号証の記載前記乙第一号証中「本人通知日昭和二十六年九月十日」との記載を考えあわせることによつて、右棄却決定通知書が、昭和二十六年九月十一日普通郵便に付され郵便局へ渡されたと推認し得ないではない。
すすんで右通知書は控訴人に到達したかどうかの点を案ずるに、これが到達をそのものひとつによつて確信させるにたりる資料は現われていない。では、いろいろな事情の、それによつてその到達を認定するを相当とするものが存するかというにまず前記通知書の郵便物が、控訴人に配達されないで返送されたということを認め得る資料がないから、返送されなかつたとするほかないが、昭和二十六年九月当時は郵便業務の運営も敗戦後の混乱時期を過ぎてほぼ正常に行われたとみるべきであるから、返送されないのは到達したものであろうと一応の推測をしてよいけれども普通郵便として郵便局へ渡された郵便物について、それが返送もされないが、宛名人にたいして配達もされないということも絶対にないことではないのであるから返送されないとの一事によつて到達したと認定することはできない。また原審証人鈴木新次郎の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第五号証の一、二と同人の証言とをあわせてみると、昭和二十六年九月十日附の再調査請求棄却の通知書が同月十二日杉並区馬橋二丁目二三二番地鈴木新次郎に普通郵便によつて到達していることが認められ、原審証人清水友次の証言と乙第二号証の記載とによると、この通知書は前述認定の、控訴人にたいする通知書と同時に郵便局へ渡されたものであると推認されないでもない。この事実に右鈴木の住所と控訴人住所とは余り遠くはなれてはいないという公知の事実をあわせ考えてもなお、これによつて控訴人にたいする決定通知書もまた到達したものと断定することはできない。なお、以上の事情全部をもつても、着かないのは不思議だ、着きそうなものだが、という感想をおこさせるだけである。世の中には意外な案外な思いもよらぬことがおこることがあるのである。前記の事情から決定通知書の到達を認定することは相当でないとしなければならない。のみならず、原審証人田中美代子は再調査請求棄却決定の通知書の送達をうけていないと証言しているのであるから、結局被控訴人主張の再調査請求棄却決定通知書は控訴人に到達せずにおわつたものとするのほかない。右のほかに被控訴人から決定通知をしたことのないことは、本件口頭弁論の全趣旨からみて明かである。もつとも、再調査請求棄却決定の通知を、本件のごとく、通知書を普通郵便によつて送達する方法によつてすることは、従来の実際の取り扱い例であろうと想像され、この通知書到達の証明について、前段の説示からおのずからわかるように、やかましい要求をされると、税務行政はいよいよ、忙しく、わずらわしくなるばかりである。この方法でもたいていは到着するのであるから、これでさしつかえないではないかとの苦情が、被控訴人側からは出るであろうが、再調査請求棄却決定の通知にかぎらず、所得税法第六章(再調査、審査及び訴訟)の規定にもとずく税務行政庁の決定の通知はそこに規定される不服申立ないし出訴の期間の算定基準となり、したがつて、不服申立権存否判定のカギとなるものであるから、納税者側にとつてはきわめて重大な意義を有するのである。税務行政当局は、手数やめんどうをいとわず、通知書送達の正確とその証明資料の保存とにつとめて、納税者の心服を期待すべきものである。乙第三号証によると、これまでもどういう書面で、どういう場合であるかは不明であるが、書留郵便、配達証明付で発送することもあることがうかがわれるから、必ずしも無理な要求ではないと思われる。
かような事情である以上、本件はまさしく所得税法第五一条第一項但し書に「再調査の請求があつた日から六箇月を経過してなお再調査の決定の通知がないとき」というにあてはまるのであつて、審査の決定を経ないで控訴人主張の更正決定の取消しを求める訴を起すことができる場合であり、記録によれば本件訴状は昭和二十七年二月二十一日東京地方裁判所へさし出されたのであるから、本件訴は所得税法第五一条第三項所定の期間内に起されたこと明かである。
したがつて、本件をもつて、所得税法第五一条に反する不適法な訴であるとして、これを却下した原判決は不当というのほかなく、民事訴訟法第三八六条によつてこれを取り消し、同第三八八条によつて事件を第一審裁判所たる東京地方裁判所へさしもどすべきものである。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 藤江忠二郎 原宸 浅沼武)